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日本では、幸徳秋水がクロポトキンの影響を受けたが、大逆事件で弾圧された。大正時代に入り、ロシア革命が起こると、大杉栄の主張する、労働組合を基盤としたアナルコ・サンディカリスムが一定数の支持を得て、マルクス主義者(ボリシェビキ)との間にアナ・ボル論争と呼ばれる論争が行われたが、大杉は関東大震災後の混乱の中、甘粕正彦憲兵大尉により殺害された(甘粕事件)。 大杉の死後、主導的人物を失ったアナキズム運動は個人的な活動から組織的、社会的な運動となっていく。まず、八太舟三に代表される純正アナキズム(アナルコ・サンジカリズムは、サンジカリズムの影響を受けており不純なアナキズムであると批判する)が盛んになり、その後は、アナキズムとしては異例の強固な「党的志向」をもった無政府共産党や、全国的な農民運動として、歴史的には「農青イズム」と呼ばれた革命的地理区画を全国に樹立した具体的で実践的な農村青年社の運動が登場する。 太平洋戦争敗戦後のアナキストは寧ろプルードンの立場に近く、実力での資本主義制度を打倒よりも地域コミュニティ再建の実現を目指していた。戦後のアナキズムはアナルコ・サンディカリズム系の日本アナキスト連盟と、純正アナキズム系の日本アナキスト・クラブが啓蒙的活動を続けていたが、ほとんど影響力はなく、アナキズムは死んだに等しいと見なされていた。 そのようなアナキズムが蘇ったのは1968年から1970年にかけての全国的な学園闘争においてである。学園闘争の中心となった全共闘(全学共闘会議)はノンセクトであり、その組織形態もアナキズムに多い自由な評議会的なものであったことからアナキズムへの関心が芽生えることになった。東京のアナキストは連盟の後継の要素を引き摺り、学習会的・サロン的色彩を払拭出来ず(麦社)、それ以外もテロリスト的な小結社主義(背反社)の域を出なかったが、関西・大阪のアナキストは、小組織・小グループの傾向を離脱してアナキスト革命連合(ARF、アナ革連)という「アナキスト・ブント」とあだ名された統一組織を形成し、各大学や地域において強力な運動を展開した。関西の主要大学にはアナキスト連合の組織や支部が形成され、キャンパスにはアナキストの黒旗が翻り、一部では完全にマルクス主義者を凌駕していた。 戦後のアナキストとしては、詩人の秋山清や評論家の大澤正道らがおり啓蒙的著述を続けていたが、その後、向井孝は自身のミニコミ紙で非暴力直接行動論を粘り強く持論とし、フランスにいた尾関弘はダニエル・ゲランの翻訳を行った。またFX 革命連合の活動家だった千坂恭二は『情況』や『映画批評』誌などでバクーニンの思想をベースにブント的アナキズムを精力的に展開し、大島栄三郎は黒色戦線社を設立し八太舟三の純正アナキズムの普及に努めた。アナキスト以外では作家の埴谷雄高や映画評論家で『映画批評』編集長の松田政男、俳優の天本英世などがアナキズムに強い関心を示していた。 ピョートル・クロポトキン政治思想としては、左翼に属する。しかし、その内容は多様であり、一個の思想というより、複数の思想の共通形態と言えよう。たとえば歴史上のアナキズムの古典とされるプルードン、バクーニン、クロポトキンの三人においてさえ、思想はまったく異質である。資本主義のシステムを批判したプルードンのアナキズム(プルードン主義、"無政府連合主義")はフランス流の合理的思考の影響を引き摺り、革命の運動論と組織論を展開したバクーニンのアナキズム(バクーニン主義、"無政府集産主義")はヘーゲル左派的なヘーゲル主義の色彩を色濃く残し、相互扶助による社会を構想したクロポトキンのアナキズム(クロポトキン主義、"無政府共産主義")は徹底して反ヘーゲル的である。彼らに共通するのは思想内容ではなく、自由を強固に求めるというアナキズム的傾向であろう。 マルクスはプルードンを根強く、酷く批判し、またバクーニンとは第1インターナショナルにおいて激しく論争した。そのためバクーニン以後のアナキストは自らを「反権威主義者」と位置づけ、マルクスを「権威主義者」として批判し、マルクス主義者は第二インターナショナルにおいてアナキズムを敵視した。このため伝統的なアナキズム思想史やマルクス主義思想史ではマルクスはアナキズムと敵対的と見なされているが、しかしマルクスもまた国家についての究極的立場は「国家の死滅」であり、その意味ではマルクスの思想もまたアナキズムだともいえる。さらにマルクス以前の、やはり権威主義的傾向とされるブランキもまた到達すべき社会は「規則ある無政府」であるという。これは無秩序としての無政府ではなく、固有の秩序を持つ無政府のことであり、それを求めるブランキもまたアナキストであるといえなくもない。アナキズムを一個の党派的思想ではないとするならば、旧来の思想史的理解に対して、マルクスやブランキ、さらにはバブーフをも含むアナキズムの思想史的理解が必要ではないだろうか。 ジョルジュ・ソレルアナキズムは思想体系というよりもくりっく365 傾向ということから、アナキズム以外の思想にも様々な影響を及ぼしているが、もっとも有名なのは、アナルコ・サンディカリスムのような、労働運動と結びついたアナキズムの影響を受けたフランスの思想家であり、ファシズムにも影響力を持った『暴力論』の著者であるジョルジュ・ソレルだろう。 また、これらの社会主義的傾向のアナキズムに対して、個人主義的傾向のアナキズムがあり、その代表としてヘーゲル左派の出身で、ヘーゲルの「絶対精神」を自我の所有するものと捉え、独我論的なまでに「自己」の絶対自由性にこだわったマックス・シュティルナーがいる。 通常、アナキズムは、一個の政治思想としてはマルクスの共産主義よりも「左」に位置する極左的思想と見られている。しかし、そうした政治思想としてではなく思想や精神の形態として見れば、さまざまなタイプがある。プルードン、バクーニンからマラテスタやヨハン・モスト、エーリヒ・ミューザムまで左翼や極左としてのアナキストは有名だが、「右」に位置付けられる人々にも精神形態から見ればアナキスト的傾向が存在する。例えば、「保守革命のアナキスト」(H-P・シュヴァルツ)といわれる後期のエルンスト・ユンガーや、フライコールに参加しコンスル(執政官組織)の一員でもあった「プロイセン的アナキスト」といわれたエルンスト・フォン・ザロモンがいる。 ノーム・チョムスキー マサチューセッツ工科大学教授・言語学者・思想家アメリカ合衆国ではリバタリアニズムが保守本流であるが、厳密にはアナキズムではない(アメリカの保守派である共和党は、中絶、同性結婚などに反対の立場をとっており、この意味では社会的自由を唱えるはずのリバタリアニズムも彼らには当てはまらない。リバタリアニズムを掲げる代表格であるロン・ポールも強く中絶、同性結婚に反対しており、個人主義を認めないという点でこの名称には当てはまらない)。 アメリカ人にとってアナキズムは共産主義と並ぶ反体制派の思想と見られており、保守派の間でもアナキーはフリーダムと区別されており、かつ批判的ないし軽蔑的に使用されている。ドイツでは近年、政府だけではなくあらゆる労働をも否定する「ポゴ無政府主義」が提唱され、1981年にはドイツ無政府主義ポゴ党が結党されている。